「暗闇にヤギを探して」へのコメントレスです!

hatikaduki様、コメントありがとうございます!
 風子は「カッコ良い」という点では良いキャラだったかもしれません。ですが、最終的に主人公と恋人同士にする、つまり「恋愛もの」のキャラとしては、ぬいぐるみを被って目立つ、強引に言うことを聞かせる、その程度でしか好意を示せない幼稚な愛情表現しかなく、全巻を通して先輩に及ばなかったように思うのです。「近すぎたからわからなかったけど、突然大事な人だと気づいた」パターンは王道の一つですが、たぶん自分はそこに胡座をかいているキャラより、色々アピールしている姿勢のキャラの方を好ましく思う傾向があるのでしょう。それゆえ3巻の台詞にあった「気づいてもらう」が前提の1,2巻の風子が、3巻程度の描写だけで「恋を勝ち取る」展開は、全巻通してミリオン先輩にかけられた心情描写の密度と比べた場合、「努力しなかった者が特をした」と感じてさせてしまう程度には、居心地の悪さを(少なくとも自分には)感じさせたわけです。自分が本を読む時、キャラ描写の密度は(自己の矜持などに照らし合わせ、納得のいくものであれば)そのキャラへの感情移入度に変換されますので、当然、風子に対するそれは希薄であり、逆に感情移入度の高い主役の一人であったはずの先輩に対する酷い顛末に拒否反応が出た、というわけです。ホント、なんでしょう、あの取ってつけたようなオチは(苦笑)。読者を舐めすぎです。
 たぶん「主人公が先輩と一緒になって、風子は一人、遠いお空の下で、幼い自分の愛情表現をほんの少しの後悔と共に懐かしく思い出すのであった」という、風子の成長を感じさせるENDであれば、同情分が加点され、先輩に並び立つ良い女になったなあ、と評価して終わったでしょう。しかし、あっさり主人公が追いかけてきて、タナボタ式に恋の勝者に納まった時点で、風子は「すねたもの勝ち」キャラのまま終わってしまった。魅力の無い主人公と一緒になったのは妥当という見方もあるかもしれませんが。
 せっかく「ミリオン先輩」という「紙を食べる」という珍しい特徴を付けのキャラを生み出せたのにも関わらず、それを生かしきることなく、「記憶喪失→風子END」という、漫画、小説、アニメ、ゲーム、エロゲーetcにおいて、ありきたりに使われている凡百の締めを選んでしまったこの物語は、そこはもう作者の技量か担当のせいか出版社の意向か。実際、3巻単体でみるとなんの特徴も無い平凡な小説ですし。別のENDを選択できなかったのは、やっぱり作者の限界だったんだろうなあ。もしかしたらギャルゲーやエロゲーの遣りすぎなのかも。
 明らかに1巻で終われば珍しいタイプの小説で終わった「暗ヤギ」。これは推測ではありますが、続刊を出せる程度に売れてしまった要因の一つは、シコルスキーさんの絵にあったからではないかと(笑)。実際、全編通してみると1巻の超常的なものを混ぜた雰囲気に比して、2巻では羽生まひる、3巻では屋上の女装少年と、これらは1巻のミステリアスさを継続させようと頑張った跡だと思うのですが、1巻の先輩に感じた神秘感には遠く及ばず、いかにも場当たり的なテコいれでしかないですしね。
 ただ、2巻はヒロインの主軸が1巻から継続して先輩であったことで、続刊としては悪くなかった。逆に締めは震えが繰るほど良いものでした。ですが3巻でいきなり風子にスポットを当てたことで、「暗ヤギ」の象徴を先輩と捉えていた自分にとって、この小説が「暗ヤギ」である必要性が、全く感じられなくなってしまったのですね。逆に誰も、ここら辺について言及せずに、風子ツンデ万歳(いや風子ツンデレ違うでしょ)なのが不思議というか。色々なパターンを知りすぎているせいで、1,2巻程度の描写では既存の同系列キャラ並の魅力を風子に感じることが出来なかった自分が悪いのか。もうこれは好みの問題でしかないのですが(苦笑)。
 電撃文庫で展開中の「れでぃ×ばと!」というラノベがありまして、

れでぃ×ばと!〈3〉 (電撃文庫)

れでぃ×ばと!〈3〉 (電撃文庫)

こちらも、他のキャラとの絡みに時間を割いているにも関わらず、最終的には「腹黒キャラ」(笑)の幼馴染と一緒になってしまいそうな展開で、ちょっと心配だったりします。どうも「暗ヤギ」でトラウマになってしまったのか、この手の展開を持つ小説が「誰とくっつこうが、ちゃんと説得力をもたせて終わらしてくれるのか」怖くて*1。どうでしょう。たまには努力をしない幼馴染以外と主人公がハッピーエンドになる小説も読んでみたくなりませんか?

*1:ちなみにこの小説の場合、【現時点】では絡みの描写が多い、フレイムハート嬢と一緒になってくれれば(自分としては)言うことなし、ということになります。この場合失恋した幼馴染が、身分の違いを乗り越えようとする主人公をサポートしたりするとさらに燃えるわけですが。